工場で必要な技術・技能伝承とは? 第四回

仕事の基本
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技能伝承ってどんなこと?

そんな疑問に答える「技術・技能伝承の第四回」です。

☑記事の内容

  1. 暗黙知とは?
  2. 暗黙知のタイプ分け
  3. 暗黙知の層別
  4. 層別による形式知化の違い

私は自動車メーカーの工場で改善活動の指導を10年以上行ってきました。実績を金額に換算すると1億円以上の改善を行なってきたいわゆる改善のプロです。

そんな私が解説します。

暗黙知とは?

暗黙知とは「表現が困難な知恵・知識」のことです。知恵は判断や処理を知識は認識・理解を表します。一般的には長い間の経験・体験によって獲得されるものです。

体に染みついている動作としての場合と脳に染み付いた瞬間的な判断の場合があり、技能の場合はカンコツ・ノウハウと呼ばれます。

カンは勘であり、感覚・感性を表し、コツは骨であり、要領・要点・ポイントを表します。ノウハウは実行上の工夫点・考え方・段取りなどを表し、計画性・企画性も含みます。

暗黙知のタイプ分け

暗黙知は四つのタイプに分類できます。

  1. 判定型暗黙知
  2. 加減型暗黙知
  3. 感覚型暗黙知
  4. 手続き型暗黙知

判定型暗黙知

形式型暗黙知は質的判断を行い、環境や状況・事態を診断・予測・推測する能力です。

判定・予測・診断に必要な要件をリストアップし、それぞれの基準と実際の値を比較して判断を行います。過去の経験と照らし合わし、確立を推測しながら行う動作のことです。

形式知化するには判定に必要な要素を明確にすることが重要です。

加減型暗黙知

加減型暗黙知は行動に必要な量的把握を伴う内容に対応する能力です。加えるか、減じるかという量的判断に基づき行動を決定します。

形式知化するには量の把握方法と基準からの距離判定の閾値を明確化することが重要です。

感覚型暗黙知

感覚型暗黙知は体の感覚に依存した能力です。

接触型判断と非接触判断があり、接触型判断は手、足、体などで触れて判断しています。非接触型判断は目、鼻、耳、粘膜といった触れなくて感じるもので判断しています。

洗練された感覚や感性を獲得し形式知化するためは非接触型判断の「目視」の場合は見る箇所や見る内容を明確にする、接触型判断の「触感」の場合はどの感覚器でどの部分をどのように接触させてどのような感触・感覚で判定しているかの基準を明確にすることが重要です。

手続き型暗黙知

手続き型暗黙知は作業におけるプロセスの把握および制御、思考の過程などの能力です。

形式知化するために手続きを手順として表記することは可能だが、膨大な量になるため工夫が必要です。

熟練者は手順をストーリーとしてとらえていることが多く、このストーリーを明らかにしていく必要があります。細かな内容や分岐点などで変化するストーリーを必要に応じて取り出せる工夫を取り入れます。

与えられた状況、条件とプロセス系を確立することが重要です。

暗黙知の層別

暗黙知の階層

暗黙知を4つの階層に分けて浅いものから第1層、第2層、第3層、第4層とします。

第1層

第1層は極めて浅い暗黙知です。

見えやすいもので作業等を見るだけで暗黙知が理解できる観察可能で記述が容易なものであります。

第2層

第2層は見ることは困難だが、言語化が可能なものです。

熟練者への適切なインタビューにより記録することができます。

第3層

第3層は熟練者は自覚していないが、第三者が聞き出すことによって言語化が可能になるものである

第4層

第4層は作業者が無意識に行うもので、言語化も不可能なものです。

第三者がかかわっても明らかにすることは困難です。

層別による形式知化の違い

暗黙知の形式知化作業の方法は層別により違います。

第1層の暗黙知の形式知化

「見て、言語化する」

記録者が熟練者の作業、行動を観察して文書で記録します。

作業の順序に従って時系列に列記する

「何を」「どうする」「何によって」を記載する

第2層の暗黙知の形式知化

「基本的な問いによるインタビュー」

熟練者に基本的な質問をしてその回答を記録します。

「何を見たか」「何を聞いたか」「何を判断したか」「どう動いたか」などに加え「どの程度~~」「何を手掛かりに~~」「いつまで~~」などを追加して質問する

疑問が残らないように細かく質問し暗黙知を明らかにしていく

第3層の暗黙知の形式知化

「仮説検証の問いによるインタビュー」

熟練者の作業の合理性に着目して仮説を立てて質問を行いその回答を記録します

仮説と一致すればそのまま記録し、仮説と不一致の場合は「どこが」「なぜ」違うのかを追加で質問して明確にする

熟練者自身も曖昧な部分であるので質問者が「これは~だから、~~と決めたのですね。そうでないと~~となりますからね」といったように仮説をぶつけて確認する

質問者のリードにより熟練者の暗黙知の核心部分を掘り出していく

第4層の暗黙知の形式知化

「記録者が体得した後に言語化する」

記録者自身が体得しなければ明確にでません。

ある一定以上のレベルにならないと理解困難・理解不能な部分であるからです。

熟練者にその周辺を語ってもらうことは解明に役立つが、本質的には記録が困難です。

まとめ

  1. 暗黙知とは「表現が困難な知恵・知識」
    1. 知恵は判断や処理を知識は認識・理解を表す
  2. 暗黙知は四つのタイプに分類できる
    1. 判定型暗黙知
    2. 加減型暗黙知
    3. 感覚型暗黙知
    4. 手続き型暗黙知
  3. 暗黙知を4つの階層に分けることができる

暗黙知について解説しました。

暗黙知の形式知かについて知っておくべき知識ですので技術・技能伝承に取り組む際はよく理解しておくことが必要です。