工場で必要な技術・技能伝承とは? 第十回

仕事の基本
Businessman holding an hour glass

技能伝承ってどんなこと?

そんな疑問に答える「技術・技能伝承の第十回」です。

☑記事の内容

  1. 「いつやるの?」日本の企業の人材育成
  2. 技術・技能伝承は残り時間の把握から
  3. 技術・技能伝承に対する誤解

私は自動車メーカーの工場で改善活動の指導を10年以上行ってきました。実績を金額に換算すると1億円以上の改善を行なってきたいわゆる改善のプロです。

そんな私が解説します。

「いつやるの?」日本企業の人材育成

日本企業の人材育成は「待ったなし」の状態です。今からすぐに取り掛からないと間に合わなくなる可能性が高いのです。

モノづくりの現場にかかわる方でしたら、「現在は何とかなっているけど、中長期的には不安がある、、、。」といった肌感覚と合致するのではないでしょうか?

実際のデータにおいても、日本の経営課題において人材育成は「現在の課題 第2位」「3年後の課題 第1位」「5年後の課題 第1位」となっています。

ベテランや熟練者が本当に現場から姿を消す前に取り組み始め、継承を完了させなければその技術・技能は消えてしまします。コア技術の喪失、作業効率の悪化によるコスト高といったリスクを抱えている状況なのです。

特にコア技術の喪失は重大なリスクです。そうなると製造業として継続すら困難になる可能性があります。

技術・技能伝承は年単位での時間を必要とします。ですので、「今やるべき!」とすぐに取り掛かる必要があるのです。

技術・技能伝承は残り時間の把握から

技術・技能伝承は年単位で時間がかかります。適切に教えてもらえば比較的短時間で習得できる一般的な技能とは違うのだと認識をする必要があります。

ベテランの熟練者が行っている作業にはカン・コツなどの暗黙知を多く含み、それらが複雑に絡み合っていることがほとんどです。このような技術・技能の伝承には1年から数年といった時間が必要になります。

そのため、どれだけ時間が残されているかを把握し可視化する必要性があります。具体的には各技能が喪失するまでの期間が短いものは重要度を上げトップ主導で取り組む必要があります。4段階で表した例が以下のようになります。

  • 緊急度4 一年以内にその技術・技能が失われる可能性がる。
  • 緊急度3 1~2年以内にその技術・技能が失われる可能性がある。
  • 緊急度2 2~3年以内に技術・技能が失われる可能性がある。
  • 緊急度1 当面は問題ないがそのスキルを持った人が一人しかいない。

緊急度4に当てはまる技術・技能がある場合は最重要項目として取り組む必要があります。

例えば会社のコア技術を持つ熟練者の退職予定が1年後にある場合などです。その場合は期限以内に技術・技能伝承が進み、後継者の育成や暗黙知の明確化などを進める必要があります。そうしなければ会社からそのコア技術が消えてしまうからです。

あと一年あるように感じますが、実際には業務の都合や不測の事態などの発生により技術・技能伝承に使える時間は短くなります。ですので最重要項目として取り組んでいく必要があるのです。

意外と見過ごされがちなことが緊急度1と低い特定のスキルを持った人が一人しかいない状態です。この状態の現場や工場は技術・技能伝承を後回しにしがちです。「今は何とかなっているから、、、。」となっているのです。

しかしこのような状況で生産を続けていると、その人が病気やけがで入院などした場合において生産ができない、もしくは効率が極端に低下するといったリスクを抱えていることになります。また、急な退職といった場合も考えられます。

このようなリスクを敏感に感じ取り解消していくためにも計画的に技術・技能伝承に取り組むための「技術・技能伝承の残り時間を可視化」する必要があるのです。

技術・技能伝承に対する誤解

技術・技能伝承には2つの誤解があります。それは以下のことです。

  1. 技術・技能伝承は「匠の技と精神」を受け継いでいくことだ
  2. 技術・技能伝承は「作業が可能になること」さえできればよい

技術・技能伝承は「匠の技と精神」を受け継いでいくことだ

伝統工芸のような一品ものを匠の技でつくり上げるものと違い工業製品の生産においての技術・技能伝承は一子相伝のように人から人へと受け継いでいくものではありません。

技術・技能伝承は基礎的な技能・技術はもちろん、応用的なものまで教育マニュアルに沿って行われるものです。熟練者のカン・コツといったスキルを否定するわけではありませんが、カン・コツを優先した教育体制ではいけないということです。

技術・技能伝承は「作業が可能になること」さえできればよい

技術・技能伝承は「作業が可能になること」だけを目指しているわけではありません。

「作業が可能になること」はもちろん必須ですが、その工場や現場で培ってきた作業上のコツやポイントを含めて作業に含まれるノウハウの理解が必要です。

そのような暗黙知の部分までも取得することでさらなる技術・技能の向上へとつなぐ継承者が育つのです。

まとめ

記事のまとめです。

  1. 企業の人材育成はすぐにでも取り組むべきで
  2. 技術・技能伝承は残り時間の把握することから
  3. 技術・技能伝承は教育マニュアル等を活用し、暗黙知の部分までも習得を目指す

技術・技能伝承の育成について解説しました。実際に取り組んでいる企業、現場は着実に進んでいて、何もしていない企業、現場はどんどん崖っぷちに追い込まれている状況です。

輝く未来のためにも、早急に、計画的に技術・技能伝承を進めていきましょう。